今回は信託財産に不動産が含まれている場合の信託契約終了の手続き方法についてお話しさせていただきます。今までは、法務局によってこの手続きの扱いが異なり、統一的なルールがありませんでしたが、2024年1月10日から、手続きが全国で統一されました。本ブログでは信託財産に不動産が含まれている場合の信託契約終了の手続き方法について説明していきますので、手続き方法をお知りになりたい方は本ブログを見て参考にしていただけると幸いです。
目次
1 信託契約が終了したらどうするの?
信託が終了すると、信託財産を管理している受託者は、まず信託財産に関する債権の回収や債務の支払いを行います。その後、残った財産を信託契約で指定された人(帰属権利者や残余財産受益者等)に渡します。
信託法によると、残った財産は以下の順序で渡されることとなります。
①信託契約で指定された人(帰属権利者や残余財産受益者)
②指定がない場合は、委託者やその相続人など
③上記の中で決まらない場合は、清算を担当する受託者
実際には、ほとんどの信託契約で帰属権利者が指定されているため、この人に財産が渡されます。
信託財産に不動産が含まれている場合、信託が終了した後にその不動産を指定された人(帰属権利者)に引き渡す必要があります。具体的には、次の手続きが必要となります。
・所有権移転登記:不動産の所有権を受託者から帰属権利者に移すための手続きです。
・信託抹消登記:信託財産となっていた記録を登記簿から削除する手続きです。
これらの手続きを同時に行います。信託抹消登記は受託者が単独で申請できますが、所有権移転登記は帰属権利者(新しい所有者)と受託者(信託を管理していた人)が共同で申請します。
例えば、「受益者である父が死亡した場合」を信託終了の条件とし、受託者を長男、帰属権利者を母とした場合、次のような手続きを行います。
受託者である長男が、信託の抹消登記と同時に所有権移転登記を申請します。
母を新しい所有者(登記権利者)とし、受託者である長男が申請することで、不動産の所有権を母に移します。これにより、信託不動産が正式に母の所有となり、信託は終了します。
2 信託財産を受託者の財産にする場合の手続き(従来の手続き方法)
以前までは、信託が終了したときに不動産の名義を変える手続きが、法務局によって異なっていたため、問題がありました。家族信託の場合は、受託者が受益者の子であるなど、受託者が残余財産帰属権利者として残余財産を引き継ぐケースが多く見受けられますが、特に、信託不動産を信託の管理者(受託者)個人の財産にする場合の手続きが不明確で、次の2つの方法がありました。
①所有権移転及び信託抹消登記:不動産の所有権を受託者に移し、信託を終了する登記手続き。所有権移転登記は帰属権利者が登記権利者、受託者が登記義務者として共同申請する。
②受託者の固有財産となった旨の変更及び信託抹消登記:不動産の所有権を受託者に移さずに、受託者の財産とする登記手続き。受託者が登記権利者、受益者が登記義務者となって共同申請する。
これらの方法のどちらを使うべきか、法務省の指示がなかったため、法務局によって対応が異なっていました。
法務局ごとに取り扱いが違うため、手続きが複雑でしたが、2024年1月10日からは、②の方法で、受託者個人の単独申請で登記ができるように統一されました。これにより、相続人全員の協力が必要なくなり、手続きが簡単になりました。
3 信託財産を受託者の財産にする場合の手続き(現在の手続き方法)
2024年1月10日に法務省が発表した新しい回答内容をご説明していきます。この回答によると、信託不動産の登記手続きは、以下のように統一されました。
受益者の変更登記:
受託者が、亡くなった受益者の代わりに新しい受益者として自分を登録する手続きです。
この手続きは、受託者が単独で申請できます。
受託者の固有財産とする登記:
信託不動産を受託者の個人財産とするための手続きです。
受託者が申請します。専門的な内容となるため説明は割愛しますが、受託者の固有財産となった旨の登記を入れるためには、前提としてこの登記申請を行った後でないといけません。
登録免許税の軽減措置:
信託財産を受託者の個人財産とする登記には、通常の不動産登記の登録免許税が適用されますが、以下の条件をすべて満たせば軽減されます。
・信託の受託者から受益者に信託財産が移る場合であり、
・信託の効力が生じた時から、委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合において
・受益者が、信託の効力が生じた時の委託者の相続人である(もし委託者が合併で消滅し た場合は、その合併後に存続する法人または新設法人が相続人となる)場合
登記識別情報について:
登記識別情報の発行:
受託者の個人財産とする登記では、新しい登記識別情報は発行されません。以前の信託登記時に発行された情報が引き続き有効です。
これにより、受託者が信託不動産を個人財産として登録する手続きが簡素化され、全国で統一された運用がされることになりました。
4 まとめ
以上が「信託財産に不動産が含まれている場合の信託契約終了の手続き方法」についてのお話でした。今回のお話を以下にまとめています。
信託に不動産が含まれている場合、信託が終了したら、その不動産の名義を信託契約で決めた人に変更する手続きが必要です。この手続きの一つが、相続人の一人である受託者個人の名義にする手続きでしたが、どのように行うかが不明確でした。
これまで、法務局によってこの手続きの扱いが異なり、統一的なルールがありませんでしたが、2024年1月10日から、受託者個人の名義にする場合の手続きが全国で統一され、受託者が単独で申請できるようになりました。
ポイントは以下のようになります。
・2024年1月10日から、信託終了時に受託者個人の名義にする手続きが、全国の法務局で受託者単独で申請できるようになった。
・信託終了後、清算受託者は残った財産を契約で決めた名義人に渡す。
・信託終了後、不動産がある場合は名義変更手続きをする。
・受託者以外の第三者が新名義人となる場合、所有権移転と信託抹消登記を行う。
・受託者個人を名義にする場合は、受益者変更登記をした後、受託者の財産とする登記を行い、この登記は受託者が単独で申請できる。
・この登記には登録免許税の軽減措置が適用される可能性がある。
登記識別情報は発行されないため、信託登記時の情報を保管する必要がある。
相続サイト | |
所在地 |
|
その他 |
|
著者情報
代表 柳本 良太
- <所属>
- 司法書士法人 やなぎ総合法務事務所 代表社員
- 行政書士法人 やなぎKAJIグループ 代表社員
- やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役
- 桜ことのは日本語学院 代表理事
- LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師
- <資格>
- 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
- 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
- 2009年 司法書士試験合格
- 2010年 行政書士試験合格